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広島地方裁判所 平成7年(行ウ)12号 判決 1997年1月29日

広島市中区加古町六番五号

原告

有限会社島崎産業

右代表者代表取締役

島崎洋

右訴訟代理人弁護士

関元隆

広島市西区観音新町一丁目一七番三号

被告

広島西税務署長

右指定代理人

村瀬正明

石橋秋夫

表田光陽

河島功

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(一)  被告が原告の確定申告に基づき平成六年四月二〇日付でした

(1) 別表1の「<2>更正処分等」欄のとおりの各事業年度の法人税の更正処分、及び平成三年六月期の重加算税の賦課決定処分、並びに

(2) 別表2の「<2>更正処分等」欄のとおりの平成三年六月課税期間の消費税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分をそれぞれ取り消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

二  当事者の主張

1  請求原因

(一)  原告は不動産販売業を営む会社であるが、別表1の「確定申告」欄記載のとおり、平成二年七月一日から平成三年六月三〇日まで(平成三年六月期)、同年七月一日から平成四年六月三〇日まで(平成四年六月期)、及び同年七月一日から平成五年六月三〇日まで(平成五年六月期)の事業年度(以下「本件各事業年度」という。)の法人税の青色の確定申告書を所定申告期限までに被告に提出した。

(二)  被告はこれに対し、平成五年一一月二四日付で別表1及び2の「<1>更正処分等」欄記載のとおり平成三年六月期の法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分並びに平成三年六月課税期間の消費税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分(以下、これらの処分を併せて「本件平成五年一一月二四日付更正処分等」という。)をした。

(三)  原告はこれらの処分を不服として、平成六年一月二四日にそれぞれ異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)をした。

(四)  その後、被告は、平成六年四月一九日付で、別表1及び2の「取消処分」欄記載のとおり、本件平成五年一一月二四日付更正処分等の全部を取消し、改めて同月二〇日付で別表1の「<2>更正処分等」欄記載のとおり各事業年度の法人税の更正処分(以下「本件各事業年度の法人税の更正処分」という。)及び平成三年六月期の重加算税の賦課決定処分(以下(「以下「本件法人税に係る重加算税の賦課決定処分」という。)を、また同日付で別表2の「<2>更正処分等」欄記載のとおり平成三年六月課税期間の消費税の更正処分(以下「本件消費税の更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下「本件消費税に係る重加算税の賦課決定処分」という。)をした。

(五)  なお、異議審理庁は、平成六年四月二二日付で本件異議申立てを却下する旨の異議決定をした。

(六)  原告は、本件各事業年度の法人税の更正処分及び本件法人税に係る重加算税の賦課決定処分を不服として、平成六年五月二三日に審査請求をした。また、原告は、本件消費税の更正処分及び本件消費税に係る重加算税の賦課決定処分を不服として、平成六年六月二〇日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、国税通則法八九条一項(合意によるみなす審査請求)の規定により、審査請求として取り扱うことを適当であると認め、原告が同意をした同年七月一三日に審査請求がされたものとみなされた。

(七)  審査庁である国税不服審判所長は、右両審査請求を併合審理し、平成七年三月三〇日付で「審査請求をいずれも棄却する。」旨の裁決をし、右裁決書謄本は平成七年四月四日付で送付され、原告はその頃これを受領した。

(八)  しかし、本件各処分は、いずれも租税法律主義の原則に反し、かつ前提事実を誤認した結果による違法な処分であり、理由のないものであるから、その全部の取消しを求めるため、本訴を提起した次第である。

2  請求原因に対する認否

請求原因((一)ないし(七))は全て認める。

3  被告の主張

(一)  本件課税処分等の経過

別表一ないし四のとおりである。

(二)  原処分を行った理由

(1) 原告は、平成二年一〇月三〇日に原告所有の広島市西区西観音町一一番一二の宅地一三五・七〇平方メートル及び同宅地上に建築された鉄筋コンクリート造陸屋根五階建床面積二六九・四五平方メートルの建物(以下「メイプル西観音」という。)を広島市佐伯区利松三丁目三〇番二六号に在住する松本妙子へ売却する旨の売買契約を締結し、平成三年二月二五日にメイプル西観音を松本妙子に引き渡した。原告は、その対価として右契約の対価の額一億八〇〇〇万円を受け取ったほか、原告が平成二年九月一七日に松本妙子及び同人の母松本俊子並びに実姉で広島市東区中山東二丁目一番一〇号に在住する尾崎洋子の三名(以下「松本妙子ら」という。)と売買契約を締結した、松本妙子らが共有する広島市佐伯区利松一丁目四六一番地一所在の「田」六五五平方メートル(以下「利松の土地」という。)を八八六九万九六〇〇円を支払って取得した。

ところが、右利松の土地の時価は一億三八六九万九六〇〇円であるから(後述のとおり。)、原告が松本妙子らへ支払った金員八八六九万九六〇〇円を差し引いた金額である五〇〇〇万円は、利松の土地の譲受けに伴う経済的利益である。

したがって、原告がメイプル西観音を売却して入手した収益の額は、前記一億八〇〇〇万円に右の経済的利益である五〇〇〇万円を加算した合計額二億三〇〇〇万円となる。

(2) 原告は、本件土地等の売買におけるメイプル西観音の益金の額については、土地が六八六四万九一〇〇円、建物が一億一一三五万九〇〇円の合計一億八〇〇〇万円であるとし、また、利松の土地の取得価額については、八八六九万九六〇〇円であるとして、平成三年六月期の欠損金額を別表一(課税処分等経過表)のとおり、一五億二二一五万五六〇二円と計算するなどして、法人税確定申告書を被告税務署長宛に提出した。

(3) しかしながら、事実は前記(1)のとおりであるから、被告は、その調査したところに基づいて、前記経済的利益である五〇〇〇万円を原告の確定申告に係る欠損金額から減算するなど、次のとおりの計算を行って、平成三年六月期の法人税の更正処分等を行ったものであり、原処分には何ら取り消されるべき違法はない。

<1> 原告の確定申告に係る欠損金額一五億二二一五万五六〇二円から、メイプル西観音の譲渡による益金の計上漏れ額五〇〇〇万円と新規取得土地等に係る負債の利子の損金不算入額の増加額三二万円を減算した金額である一四億七一八三万五六〇二円が欠損金額の正当額である。

<2> メイプル西観音の譲渡価額は二億三〇〇〇万円であり、原告が採用した計算方法でその土地譲渡利益金額を計算すると、一七二七万一四二〇円となる。そして、原告は、確定申告ではメイプル西観音の土地譲渡利益金額を一七九万七七六〇円の赤字としていたので、両者の差額は一九〇六万九一八〇円となり、この金額を原告の確定申告時の課税土地譲渡利益金額六八万一五八二円に加算すると、一九七五万〇七六二円となり、千円未満の端数切り捨てた後の一九七五万円が課税土地譲渡利益金額の正当額となる。

(4) 平成四年六月期及び平成五年六月期の法人税の更正処分は、前示のとおり利松の土地の取得価額を一億三八六九万九六〇〇円に修正したうえで、それぞれ新規取得土地等に係る負債の利子の損金不算入額を計算した結果、平成四年六月期は二八六万八〇三〇円及び平成五年六月期は二八六万八〇三〇円となったので、確定申告額との差額に基づいて行ったものである。

(5) 被告が、前示のとおり、メイプル西観音の譲渡価額を二億三〇〇〇万円、利松の土地の取得価額を一億三八六九万九六〇〇円と認定した具体的理由は、次のとおりである。

<1> 租税法においては、公平負担の原則の一つの表現として、行為の形式よりは実質、その法的評価よりは経済的結果に則して課税を行わなければならないという、いわゆる「実質課税の原則」が条理として存在し(最高裁判所昭和三九年六月三〇日第三小法廷判決、税務訴訟資料四二号四八六頁)、法人税二二条二項が、「無償による資産の譲渡に係る当該事業年度の収益の額」を益金とする旨定めた理由もこれに由来する。

税法上の所得金額は、一義的には現実の譲渡価額によって計算するのが原則であるが、各租税実体法においては、それぞれの目的に合わせて所要の調整が図られているのであり、法人税法二二条二項が「資産の譲渡に係る収益」を課税の対象にしている趣旨(すなわち、法人の資産が、売買、交換等により、その支配外に流出したのを契機として顕在化した資産の値上がり益の担税力に着目して精算課税しようとする趣旨)からすれば、課税の対象となる収益の額は、譲渡対価の有無やその多寡にかかわりなく、当該資産が譲渡される当時における時価相当額をもって算定することになる。

したがって、法人が資産を時価相当額より低廉な対価により譲渡した場合には、あたかも右資産を時価相当額で譲渡すると同時に、その譲渡対価との差額を譲受人に贈与したのと同一の経済的効果を有するのであるから、低廉譲渡の形式で担税回避を企図する弊害を防ぎ、税負担の公平を図るという見地からしても、収益の額は、右資産の時価相当額によらなければならないことになる。そして、ここでいう「時価」とは、当該資産の客観的交換価値、すなわち、それぞれの資産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解されるのである。もっとも、低廉譲渡の場合であっても、例えば、譲渡者が商取引に対して精通していないため、又は拙劣なために時価を下回る価額で譲渡してしまって損失を被った場合のように、現実の譲渡価額が相当であると信じていたような場合や、当事者の契機によって決定された現実の対価の額が合理的な理由に基づくものである場合には、右規定を適用すべきでないことはいうまでもないところであるが、本件においては、原告は、不動産取引を業とする法人であり、商取引が拙劣であったなどということはできないし、また、低廉な譲渡対価の額が契約によって決定された過程において合理的な理由があったとも認めることはできない。

<2> 本件の場合、原告と松本妙子らとの間では、後述するように、売買価額を相互に五〇〇〇万円ずつ圧縮(相互に値引きすること)した本件土地等の売買契約が締結されていたのであるが、メイプル西観音の時価が二億三〇〇〇万円であったこと、利松の土地の時価が一億三八六九万九六〇〇円であったことは、証拠上明らかであり、基本的に争いのない事実であると思われるので、右のとおり五〇〇〇万円を圧縮した理由が合理的であったか否かが問題となるはずであるところ、およそ「値引き」というからには、それによって取引の一方が値引相当額の利益を得ることによってはじめてその成果(効果)が認められるというべきところ、本件においては相互に同額を「値引く」というものであったのであり、相互に租税負担の軽減を図ろうとすること以外には、何ら経済的成果は存しなかったはずであることからしても、何らの合理性が存しないことは明らかである。

<3> 被告がメイプル西観音の売却に係る収益の額を認定した根拠をさらに詳述すれば、次のとおりである。

(a) 時価二億三〇〇〇万円のA資産を一億八〇〇〇万円で譲渡したと仮定すると、この場合の益金(収益)の額は法人税法二二条二項により、有償による資産の譲渡によって得た収益の額一億八〇〇〇万円に、無償による資産の譲渡に伴う収益の額五〇〇〇万円を加算した合計二億三〇〇〇万円となる。

しかるに、右<2>の無償譲渡に係る収益の額五〇〇〇万円は、なんら対価を得ていないことから、当該事業年度の損金の額を形成することになり、一時的には、所得金額は益金の額二億三〇〇〇万円から損金の額五〇〇〇万円を控除した一億八〇〇〇万円となる。右の低廉譲渡による損失の額五〇〇〇万円は、別段の定め(法人税法三五条、三七条)などによって損金算入が制限されているので、最終的には課税の対象となる所得金額は二億三〇〇〇万円となる。

(b) 次に、時価一億三〇〇〇万円のB資産を八〇〇〇万円で購入したと仮定すると(有償による資産の譲受け八〇〇〇万円と無償による資産の譲受け五〇〇〇万円とに分けられるから)、当該事業年度の益金の額は、無償によるB資産の譲受けに伴う収益の額五〇〇〇万円である。

(c) ところで、右(a)のA資産の低廉譲渡と(b)のB資産の低廉譲受けが取引当事者を同一として、取引条件に相互に関連性をもってなされた場合(本件のように相互に同額五〇〇〇万円を値引きし合うという場合)、当該事業年度の益金の額は、計算上は(a)の資産の譲渡による益金の額二億三〇〇〇万円に(b)の無償による資産の譲受けに伴う益金の額五〇〇〇万円を加算した二億八〇〇〇万円となり得るが、右二つの取引が相互に関連性をもって成立したという経済的実質からみて、右(a)の贈与損失(寄付金)五〇〇〇万円の部分は、右(b)の無償によるB資産の譲受けに伴う経済的利益五〇〇〇万円によって補填されているところから、相互に対価性を有するものと認定される結果、譲渡したA資産の収益の額は合計二億三〇〇〇万円となり、取得したB資産の取得価額は一億三〇〇〇万円となる。

被告がメイプル西観音の売却に係る収益の額を認定した根拠は以上のとおりである。

(d) 本件においては、原告は、後述のとおり、「メイプル西観音を松本妙子が原告から一億八〇〇〇万円で買い入れることを条件に、国土法二三条に基づき申請中である利松の土地について、国土法により承認された価格から五〇〇〇万円を差し引いた価格で、松本妙子らが原告に売却する。」旨の覚書(以下「甲覚書」という。)を交わして、メイプル西観音を五〇〇〇万円値下げする自己の経済的負担の見返りとして、松本妙子らに利松の土地の価額五〇〇〇万円の値引きを求め、そのとおりの取引を行ったものであるから、時価を前提とした課税が行われることは当然のことである(およそ値引きというからには、それによって取引の一方が値引相当額の利益を得ることによってはじめてその成果(効果)が認められるものであるところ、本件の場合は相互に同額を「値引く」というものであったのであり、相互に租税負担の軽減を図ろうとすること以外にはなんら経済的成果は存しなかったはずであることからしても、なんら合理性が存しないことは明らかである。)。

(6) 本件土地等の売買の経緯は、次のとおりである。

<1> 松本妙子は、平成二年六月末か七月初めころ、仲介業者である隆貴住建の代表者田中正義(以下「田中正義」という。)から、原告が松本妙子所有の利松の土地の隣地を購入し、マンションを建築したいとの意向がある旨を聞き、隣地にマンションが建築されると日当たりも悪くなり、田として耕作しても環境が悪くなるため、売却処分することを決意したが、利松の土地を譲渡しただけでは租税負担が大きいことから、同時に事業用の買換資産を購入しようと考え、その意向を田中正義に告げたところ、同人から紹介されたのがメイプル西観音であり、これを検分した二、三日後には、同人からメイプル西観音の価額は「二億円余りである。」と言われていた(乙一、なお、メイプル西観音の販売価格(時価)は、原告と代表者を同じくする広島市中区加古町六番五号所在のシマホーム株式会社が作成した平成二年六月一四日付「物件のご案内」という書類によると、二億三〇〇〇万円と記載されていた、乙一〇。)。

<2> その後、原告は、松本妙子と具体的な売買交渉を行い、平成二年七月二三日には、利松の土地の売買価額を一億九八一三万円とする旨の覚書を交わした(乙三)。

<3> 原告は、利松の土地について、右の一億九八一三万円を売買予定対価の額と記載して、国土利用計画法(以下「国土法」という。)二三条に基づく土地売買等届出書を平成二年八月七日付で広島市長に提出したが、対価の額に問題がある旨指導を受けた。

<4> このため、原告は、松本妙子に対し、一億九八一三万円という売買価額では国土法の許可が下りないことなどを説明し、その了解を得たので、平成二年八月二八日、土地売買等届出書に売買予定対価の額を一億三四九三万円と記載して、翌二九日に広島市長へ提出した(甲三)。

同時に、原告は、松本妙子らと本件土地等の売買契約を締結するに当たり、平成二年八月二八日付で「メイプル西観音を松本妙子が原告から一億八〇〇〇万円で買い入れることを条件に、国土法二三条に基づき申請中である利松の土地について、国土法により承認された価格から五〇〇〇万円を差し引いた価格で、松本妙子らが原告に売却する。」旨の覚書(甲覚書)を交わした(甲二、乙九)。

<5> 原告は、利松の土地に係る土地売買等届出書に関し、広島市長から平成二年八月三〇日付の不勧告通知書を受領した(甲三、乙四)。

<6> そこで、原告は、平成二年八月三一日付で広島市長に対し、メイプル西観音に係る国土法二三条に基づく土地売買等届出書を提出したが、同届出書の「土地に関する予定対価の額等」欄の金額は九〇二四万五〇〇円、「工作物等に関する予定対価の額等」欄の金額は一億一一七万五〇〇〇円、総額一億九一四一万五五〇〇円であった(甲五)。

<7> その後、原告は、利松の土地の売買価額を一億三四七二万八四〇〇円とする平成二年九月一七日付土地売買契約書(以下「甲契約証書」という、甲四、乙五。)を松本妙子らと取り交わした(なお、甲契約証書に記載された利松の土地の地積は六五五平方メートル、一九八・一三坪であり、坪当たりの単価は六八万円であった。)。

<8> 原告は、平成二年九月二〇日付で広島市長に対し、利松の土地に係る土地売買等契約状況報告書を提出したが、同報告書には、「面積」欄には公簿六五五平方メートル「契約年月日」欄には平成二年九月一七日、「契約金額」欄には一億三四七二万八四〇〇円などと記載されていた(甲三)。

<9> 原告は、メイプル西観音に係る土地売買等届出書に関して、広島市長から平成二年九月二五日付の不勧告通知書を受領した(甲五、乙六)。

<10> 原告は、平成二年一〇月三〇日、松本妙子らとの間で、「平成二年九月一七日に売買契約を締結している利松の土地の売買金額を変更し、添付書類のとおり、本覚書にて決定及び確認する。」旨の覚書(以下、「乙覚書」という、甲六、乙七。)を作成するとともに、日付を平成二年九月一七日に遡及させた売買代金を八八六九万九六〇〇円とする土地売買契約証書(以下「乙契約証書」という、甲八、乙七。)並びにメイプル西観音の売買代金を一億八〇〇〇万円とする平成二年一〇月三〇日付の土地建物売買契約証書(以下「丙契約証書」という、甲七、乙七。)を取り交わした(なお、乙契約証書では、利松の土地は実測地積で表示されており、六七四・三〇平方メートル、二〇三・九七坪となっているが、坪当たりの単価は記載されていない。)。

<11> 原告は、利松の土地に係る売買代金として、(a)平成二年九月一七日に手付金一〇〇〇万円、(b)平成二年一〇月三〇日に五〇〇万円、(c)平成三年二月四日に六九七二万八四〇〇円、(d)同月二五日に残余決済金として三九七万一二〇〇円、の順で総額八八六九万九六〇〇円を支払っており、当該金額は、乙契約証書に記載の売買代金と同額である。

<12> 原告が利松の土地及びその周辺の土地の購入資金の融資を申し込んだ宮島信用金庫廿日市支店に提出した「契約一覧明細表」によれば、利松の土地の坪当たりの価額は六八万円、地積更正後の利松の土地の価額は一億三八六九万九六〇〇円と記載されており、利松の土地の隣地には坪当たりの価額が六六万円のものがある(乙一)。

<13> 松本妙子が、メイプル西観音の購入資金の融資を申し込んだ五日市農業協同組合八幡支所(現広島市農業協同組合八幡支店)の平成三年二月一八日付の貸付稟議書によれば、「時価額計」欄には二億三〇〇〇万円と記載されているほか、「土地売買契約書上の金額は、覚書にあるように国土法の制約上、五〇〇〇万円差引した価格になっている。」旨の記載がある(乙一)。

<14> 原告は、松本妙子らに対し、平成三年二月二五日に残余決済金三九七万一二〇〇円を支払った(乙一、なお、右金額を甲契約証書の地積一九八・一三坪と乙契約証書の実測地積二〇三・九七坪の差である五・八四坪で除して算出した坪当たりの価額は、甲契約証書の坪当たりの価額である六八万円と同額となり、さらに、乙契約証書の実測地積二〇三・九七坪に六八万円を乗じて算出した金額は、乙契約証書の売買代金八八六九万九六〇〇円に五〇〇〇万円を加算した金額一億三八六九万九六〇〇円と一致する。)。

(7) 以上のとおり、メイプル西観音の時価が二億三〇〇〇万円であったことは明らかであり、また、利松の土地の時価が坪当たり六八万円であることから、実測による同土地全体の時価は一億三八六九万九六〇〇円であり、原告及び本件土地等の取引関係者は、右時価を前提とした経済活動を展開してきたことも明らかである。

(8) 国土法によって土地の譲渡価額につき制限がなされている場合であっても、取引の当事者間において経済的実質上、実質的な時価を前提とした取引がなされているときには、法人税法上、当該時価をもって課税関係を律することも当然のことである(なお、本件において二億三〇〇〇万円及び一億三八六九万九六〇〇円という売買予定価格について、国土法による勧告を受けたわけでもないことからすれば、国土法の規制を挙示して所論を展開する原告の後記主張は、前提において失当といわざるをえない。)。

(9) それにもかかわらず、原告は、何ら経済的実質を伴わないのに「値引き」と称して本件土地等の売買価額を五〇〇〇万円ずつ圧縮することを企図し、これを松本妙子らに持ちかけて、あたかも右五〇〇〇万円を差し引いた価額が真実の売買価額であるかのようにみせかけていたものであり、原告は、これを奇貨として過少申告を行ったものである。

これは、所得(欠損)金額、課税土地譲渡利益金額及び棚卸資産の取得価額の計算の基礎となるべき事実を仮装して確定申告書を提出したものであり、このような原告の行為は、国税通則法六八条一項に該当するから、同条項の規定による重加算税の賦課決定処分(平成三年六月期の法人税に係る重加算税の賦課決定処分)は適法である。

(三)  消費税の更正処分について

以上のとおり、被告がメイプル西観音の譲渡による対価の額を二億三〇〇〇万円と認定したことには合理的な理由があり、これを前提とした消費税の更正処分には何らこれを取り消すべき違法はない。

(四)  消費税に係る重加算税の賦課決定処分について

前示(二)の法人税と同様に、原告の行為に対し、国税通則法六八条一項の規定に基づいて行った消費税に係る重加算税の賦課決定処分についても、なんらこれを取り消すべき違法はない。

(五)  まとめ

以上のとおりであって、原告の本訴請求は理由がないから棄却されるべきである。

(六)  後記原告の主張は争う。

4  原告の主張

(一)  原告は、その所有に係るメイプル西観音を二億三〇〇〇万円で松本妙子に売却したいと念じていたが、これは売主としての希望価額にすぎず、国土法の規制により、原告の希望価額より五〇〇〇万円低額の一億八〇〇〇万円程度でなければ売却できないこととなったので、松本妙子、松本俊子及び尾崎洋子の三名(松本妙子ら)が共有する利松の土地についても、売主である松本妙子らに対して、同女らの希望価額より五〇〇〇万円を減額した代金にするよう要求したところ、この要求が受け入れられたものであり、これはまさに被告がいう「低廉な譲渡対価の額が契約によって決定された過程において合理的な理由があった」場合に該当するから、本件更正処分等には事実誤認がある。

(二)  国土法は、「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額(時価)」での取引を許さないものであるから、そもそも、国土法によって価額が規制される取引においては、被告の主張するような「自由な取引が行われる場合」の「時価」の理論が通用するはずのないことは自明の理である。

(三)  被告は、五〇〇〇万円宛を「相互に値引きした。」と主張するが、利松の土地の取引の当事者は、原告対松本妙子(持分六三分の一八)、松本俊子(持分六三分の二七)及び尾崎洋子(持分六三分の一八)ら三名である。すなわち、松本妙子ら三名がその共有にかかる利松の土地を原告に売却し、原告がその所有のメイプル西観音を松本妙子に売却する(松本俊子及び尾崎洋子は買受人ではない。)契約である。右のような取引で双方が同額を値引きすれば、松本俊子及び尾崎洋子は損失を被るだけであるが、そのような不合理な取引をするはずがないし、できるわけがない。

被告の主張は、同一当事者間での売買取引でなければ成立しないことを示している。

(四)  被告の主張は争う。

三  証拠

証拠の関係は、本件訴訟記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件課税処分等の経過

請求原因(一)ないし(七)の事実は当事者間に争いがない。

二  被告が原処分をした理由等

本件課税処分等の経過の詳細、被告が原処分を行った理由、被告がメイプル西観音の譲渡価格を二億三〇〇〇万円、利松の土地の取得価額を一億三八六九万九六〇〇円と認定した根拠は、被告の主張((一)ないし(四))のとおりである(乙一、一一、弁論の全趣旨)。

三  本件土地等の売買の経緯

1  証拠(甲二ないし九、乙一、三ないし七、九ないし一一)並びに弁論の全趣旨によれば、本件土地等の売買の経緯について、被告の主張(二)(6)の<1>ないし<14>のとおりの事実が認められる。

右認定に反する原告代表者の供述は、前掲各証拠に照らし、たやすく信用することができず、他に、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右認定の事実によれば、(1) メイプル西観音の時価が二億三〇〇〇万円であり、利松の土地の時価が一億三八六九万九六〇〇円(坪当たり六八万円)であり、原告及び松本妙子ら本件土地等の取引関係者は、右時価を前提とした経済活動を展開していたこと、(2) 原告と松本妙子らは、本件土地等の売買価額を相互に五〇〇〇万円ずつ圧縮(相互に値引きすること。)した契約を締結し、そのとおり履行がなされたこと(原告がメイプル西観音の対価として一億八〇〇〇万円を受取り、利松の土地の対価として八八六九万九六〇〇円を支払った。)、(3) 右二つの取引は相互に関連性をもって成立し、原告は、メイプル西観音を時価より低廉に譲渡したことによる損失分(五〇〇〇万円)を利松の土地を同様に低廉に譲り受けたことに伴う経済的利益(五〇〇〇万円)によって補填され、相互に対価性を有する関係にあること、(4) 原告は、前示甲覚書を交わしてメイプル西観音を五〇〇〇万円値下げする自己の経済的負担の見返りとして、松本妙子らに利松の土地の価額五〇〇〇万円の値引きを求め、そのとおりの取引を行って、あたかも五〇〇〇万円を差し引いた価額が真実の売買価額であるかのように仮装し、租税負担の軽減を図ろうとしたことが認められる。

四  原処分の当否

1  原告は、本件土地等の売買におけるメイプル西観音の益金の額を合計一億八〇〇〇万円であるとし、また、利松の土地の取得価額については、八八六九万九六〇〇円であるとして、平成三年六月期の欠損金額を一五億二二一五万五六〇二円と計算するなどして、法人税確定申告書を被告税務署長宛に提出したものであるところ(別表一の課税処分等経過表)、前示認定のとおり、原告がメイプル西観音を売却して入手した収益の額は合計二億三〇〇〇万円(一億八〇〇〇万円に経済的利益である五〇〇〇万円を加算した額)と認めるのが相当である。

そうすると、被告が前記経済的利益である五〇〇〇万円を原告の確定申告に係る欠損金額から減算するなどして行った平成三年六月期の法人税の更正処分等は相当であり、取り消されるべき違法はない。

また、平成四年六月期及び平成五年六月期の法人税の更正処分についても、前示認定のとおり、利松の土地の取得価額は、これを一億三八六九万九六〇〇円と認めるのが相当であるから、被告が、利松の土地の取得価額を右のとおり修正するなどして確定申告額との差額に基づいてなされたものであって、何ら違法な事由を見出すことができない。

なお、右各処分と同様の前提に立ってなされた重加算税の賦課決定処分、消費税の更正処分、消費税にかかる重加算税の賦課決定処分についても、何らこれを取り消すべき違法はない。

2  原告は、(1) 本件土地等の売買では、低廉な譲渡対価の額が契約によって決定された過程において合理的な理由があったこと、(2) 国土法によって価額が規制される本件のような取引においては、自由な取引が行われる場合の「時価」の理論は通用しないこと、(3) 本件土地等の売買では当事者が同一でないから、両取引で双方が値引きしても、値引きの利益を受けないで損失のみを被る当事者が存在することになり、かかる不合理は取引をするはずはない等種々の事由を挙げて本件更正処分等には事実誤認がある旨主張する。

しかしながら、前示認定のとおり、本件土地等の売買においては、何ら経済的実質を伴わないのに、「値引き」と称して五〇〇〇万円ずつ圧縮した売買価額を仮装し、租税負担の軽減を図ろうとしたものであり、右売買価額の決定につき合理的な理由を認めることができないし、また、本件土地等の取引につき国土法の制約を受けるからといって、前示認定のとおり、取引当事者間で経済的実質的に時価を前提とした取引がなされていることが認められる本件においては、法人税法上、当該時価を基準として課税関係を律した被告の本件各処分を目して違法とすることはできない。

その他、原告の主張するところは、前示認定の事実(前記三)に照らして、採用することができない。

五  結語

よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松村雅司 裁判官 金村敏彦 裁判官 村上未来子)

別表1

<省略>

別表2

<省略>

別表一

課税処分等経過表

(平成二年七月一日から平成三年六月三〇日までの事業年度の法人税)

<省略>

別表二

課税処分等経過表

(平成三年七月一日から平成四年六月三〇日までの事業年度の法人税)

<省略>

別表三

課税処分等経過表

(平成四年七月一日から平成五年六月三〇日までの事業年度の法人税)

<省略>

別表四

課税処分等経過表

(平成二年七月一日から平成三年六月三〇日までの課税期間の消費税)

<省略>

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